『それじゃ先方には私から連絡しておいたから、明日大学が終ったらトミタスポーツに行ってくれる?一応面接みたいなのするって言ってたけど大丈夫、私の紹介だし果歩ちゃんなら絶対合格だから安心して。場所は・・・わかるわよね?』
『はい、場所は調べて確認しました。秋絵先輩ありがとうございます、本当になにからなにまで・・・。』
『いいのよ、だいたい最初にバイトお願いしたのは私の方からだし、引き受けてくれてありがとうね。それじゃ明日からよろしくね。』
『はい、頑張ります!』
果歩は昨日の秋絵との電話の話を思い出しながらトミタスポーツの建物の中に入っていく。
元々人見知りもするタイプの果歩、アルバイトの面接とはいえ多少緊張していた。
入ってすぐ入り口付近に受付のカウンターがあった。
(まずはあそこで聞けばいいかな・・・)
「あ・・・あの・・・今日ここのアルバイトの面接に来たんですけど・・・。」
「あ、アルバイトの面接の・・・、それじゃ奥に面接するところあるんで、今からそちらに案内しますね。面接はここのオーナーがする事になっているんで。」
受付をしていたのはハーフパンツにTシャツ姿の男性だった。
その人の後ろについて行きながら周りを見渡す果歩、ここにはプールもあるのだろう、塩素の消毒の匂いがする。
(それにしても外観もそうだったけど中も綺麗な造り・・・この辺は高級住宅街もあるし、お金持ちさんが来るような所なのかなぁ・・・。)
果歩がそんなことを考えているうちに部屋のドアの前に着いていた、どうやらこの部屋で面接するみたいだ。
ドアをコンコン・・・と、その男性がノックすると部屋の中から
「どうぞ~」
という男性の声が聞こえる。
案内人の男性とともに部屋の中に入ると、椅子に深々と座った上下ジャージ姿の男性がいた。
部屋には立派なデスク、その前には黒い革でできたソファとテーブルがあり、どこかの会社の社長室といったような雰囲気だ。
しかしそんな部屋とここにいる男性のジャージ姿が果歩にはミスマッチに思えた。
「あ、水野果歩さんですね?どうぞどうぞ、そこの椅子に座って。」
「あ、はい!失礼します。」
やはりスポーツクラブだからであろうか、この部屋で待っていた男性も、ここまで案内をしてくれた男性も、身体は大きく肌がこんがり焼けていて、いかにもスポーツマンといった感じだ。
「ここのオーナーの富田です、よろしくね。果歩ちゃん」
デスクの椅子から立ち上がり、果歩の座ったソファとテーブルを挟んで向き合うように置いてあるソファに富田は座った。
果歩は初対面であるにも関わらず、いきなりのちゃん付けに少々驚いた。
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします。」
このオーナーだという富田という男性は果歩の目にはかなり若く見えた。まだ20代後半くらいだろうか・・・。
それになんだか良く言えば気さくな印象だが、軽い男にも見える。とにかくこんな立派なスポーツジムのオーナーには見えない。
「いやぁ、秋絵ちゃんにかわいい子だって聞いてたけど、ほんとかわいいねぇ。」
「い、いえ・・・そんな・・・」
こんなセリフは40代や50代の男性が言えばいやらしく聞こえるかもしれないが、富田が若く見えるためだろうか・・・果歩はそれほど不快には感じなかった。
きっとこれが普通・・・富田さんにとってはこれが普通のあいさつなんだろうなぁ・・・と果歩は思った。
「聞いてるかもしれないけど、秋絵ちゃんは俺の大学の後輩でね・・・って事は果歩ちゃんも俺の後輩なんだけどね。」
「そ、そうだったんですか・・・聞いてなかったです。」
(でも秋絵先輩と知り合いという事はやっぱり富田さん若いのかなぁ・・・)
富田の年齢は30歳、このスポーツクラブの系列の会社、トミタグループの社長の息子だ。
高校卒業後、2年浪人生活をした後大学に入った。大学生活はほとんど遊びほうけており、一度留年を経験している。
それでも大学院まで通って、果歩の1年先輩である秋絵と出会ったのはその頃だ。
富田は27歳の大学院生で秋絵は18歳の新入生の頃だ。
翌年、果歩が大学に入学する年に富田は大学院を卒業。
相変わらず遊んでいた富田は就職活動もろくにせず、結局父親のコネで今のトミタスポーツに就職した。
インストラクターとして1年働いた富田は、やはり父親のコネですぐにトミタスポーツのオーナーになった。
オーナーと言っても実質その業務をやっているのは会計士や他のスタッフだ。
富田はオーナーとなっても今までどうりインストラクターをしているだけ、それどころか遅刻や突然の欠勤は日常茶飯事、まさにやりたい放題。
それでも給料はここの誰よりも高かった。
「じゃあ、面接と言ってもたいした事じゃないんだけど、いくつか質問いいかな?」
「はい。」
「それじゃ、とりあえず果歩ちゃんが週どのくらいここでバイトするか希望を聞きたいんだけどね。」
「はい、あの・・・週3日希望なんですけど。」
「3日?結構少ないんだね・・・こっちとしては人手が足りないからもっと出てほしいんだけどねぇ・・・。」
そう言って冨田は少し困ったような顔をした。
「すみません・・・あの、実は今もうひとつ別のアルバイトを週3日してるんです。」
「そうなのかぁ、それじゃ仕方ないね・・・。ちなみにどんな所でバイトしてるの?」
「雑貨屋さんです、○○駅の前の・・・。」
「あ~あそこの可愛らしい店ね、あそこ好きな女の子多いよねぇ、店員も可愛い子ばっかりだし。それにしても週6日もバイトなんて結構大変だよ、金貯めてなんかやりたい事とかあんの?」
「いえ、特には・・・まだ決めてないんですけど・・・。海外にホームステイとかしたいなぁとか少しは考えてるんですけど・・・。」
「へぇ・・・でもそんなにバイトしてたら彼氏と遊ぶ時間もあんまなくなっちゃうでしょ?果歩ちゃんくらい可愛かったら彼氏ぐらい当然いるんでしょ?」
「は、はい。でも彼は少し前から海外に留学してるんです。」
「へぇ・・・海外留学かぁ、じゃあ果歩ちゃん寂しいでしょ?ちなみにその彼氏って果歩ちゃんにとっては初めてできた彼氏?」
「え・・・はい、あの・・・そうですけど・・・。」
アルバイトの事とは関係ないとは思ったが、別に聞かれて困る事でもないし、果歩はありのまま答えた。
「やっぱりそうかぁ!ハハッ!やっぱり大学生活、恋人くらいいないと楽しくないもんなぁ。それじゃ果歩ちゃんその彼氏とはもうどのくらい付き合ってるの?」
「え・・・え~っと、1年くらいです。」
果歩のその言葉を聴くと富田はニヤっと笑みをつくった。
「へぇ・・・1年ねぇ・・・じゃあもう果歩ちゃんはヤッちゃったんだ?」
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