タクシーがマンション前に停まると、結と砂上は慌てて財布を取り出し、タクシー代を払おうとした。
しかし岡本がすぐに手を伸ばして止めた。
「いいよ、俺が払うから」
そう言って岡本は笑顔でタクシー代を全て支払ってしまった。
結と砂上は岡本にお礼を言いつつ、思わず顔を見合わせた。
さすがプロ野球選手だと二人は思った。
そして到着した岡本のマンションは、いわゆる高級マンションだった。
「うわ、すごいな……。」
入り口で高層マンションを見上げて、思わず砂上がそう呟いた。
結も豪華なエントランスを見て思わず『わぁ……』と声が出た。
岡本の部屋は上層階で、一人や二人で暮らすには広すぎるほどの部屋だった。
こんなに本当に必要なのかと思うほどいくつも部屋があり、リビングは走り回れるほど広くて、トイレは複数、寝室もいくつかあった。
「すごいですね……」
砂上がそう呟くと、岡本は笑顔でこう言った。
「よく友達が来て泊まっていくことも多いんで、これくらいが丁度良いんスよ。」
「そうなんですね、それにしても凄い……。」
「ムスブちゃんと砂上さんも泊まっていっていいっスよ!アメニティも着替えも全部揃ってるんで。」
「いや、それはさすがに悪いですよ。」
「そんな遠慮しないでいいっスよ。まぁとりあえず飲みましょう!」
岡本がそう言うと、リビングで飲み会が始まった。
岡本が用意してくれた酒はどれも美味しく、少しだけのつもりが、結と砂上もついついお酒が進んでしまう。
座り心地が最高の大きなソファでお酒を飲んでいると、ずっとここに居たくなってしまう。
岡本とリナの話は明るくて面白くて、結も砂上は何度も笑っていた。
そして面白い話だけじゃなく、岡本は真面目な話もしてきた。
岡本の部屋は、会社員である結と砂上にはとても住めるような部屋ではない。
プロ野球選手の生活と、会社員の生活は、まるで別世界だ。
しかし岡本は、ここまで来るのにとんでもない努力と苦労を経験してきたのだと言う。
中学高校時代の厳しい練習、厳しい上下関係、プロに入ってからはさらに厳しいトレーニングと、生き残りをかけた厳しい競争に勝たなければいけない。
岡本自身も、何度も逃げ出したくなったという。
プロに入れるのは一握り、さらにその中で活躍できる選手はさらに一握りだ。
そんな厳しい世界で戦ってきたからこそ、こんな生活ができるのだ。
その話を、特に結は真剣に聞いていた。
結も熱心に仕事をしているが、〝岡本さんと比べたら私なんてまだまだ……〟と、そんな事を思いながら岡本の話を聞いていた。
お酒にも酔っ払って、すっかり岡本とリナに心を許していた結と砂上。
その後は、岡本とリナがまた笑ってしまうような話をしたり、少し下ネタの話題にもなったりした。
そして再びあの話題に……。
「そういえばさっきお店で聞きそびれたけど、砂上さんって早漏なんですか?」
「えっ!?……それは……まぁ……実は少し……そうですね。」
お酒の力もあり、つい白状してしまった砂上。
「へぇ〜やっぱりそうなんだ!早漏ってどのくらい早いんですか?」
「それはその時々というか……。」
「10分持ちます?」
「10分はちょっと厳しいかな……」
「1分とか?」
「……まぁ……」
「もしかして数秒で終わっちゃう時とかあります?」
「……たまに……」
「すご〜!早過ぎですね!」
思ったことは何でも口に出すリナの言葉が、砂上の心にグサグサと刺さる。
そしてリナは結にも聞く。
「じゃあ近藤さんも砂上さんが早漏で不満だったりするんですか〜?」
「わ、私は……別に……その……」
「ウソだ〜、そんなに早漏だったら絶対満足できないですよ〜!」
「そ、そんなことは……」
「だって男性が早漏だと女性はイけないじゃないですか〜」
「……」
図星だった。
リナの言う〝イけない〟とはオーガズムのことだ。
結はまだ、オーガズムを経験した事がない。
知識としてはそういう現象が女性の身体に起きる事は知っているし、正直どんなものなのか結も興味はあった。
しかし、砂上が早漏だからと言って不満な訳でない。
性的好奇心と愛情は別なのだから。
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