「あ~眠い。」
早朝、大きなあくびをしながら安本は駅前を歩いていた。
今日はイベントがあるというパチンコ屋に並ぶために珍しく早起きした。
「今日はなんとしても勝たないとな。じゃないと本当に食費すら危ねぇから。」
そんな事を呟きながら、ふと駅に向かう人々を横目で見る安本。
スーツや制服を着たサラリーマンや若い学生達が急ぎ足で駅へ入っていく。
そんな光景を見ていると、小汚い格好をしてパチンコ屋に向かっている自分がいかに生き遅れているかを実感せずにはいられなかった。
俺はなんでこんな事になっちまったんだろうな。
立ち止り、まるで別の世界を見るような目でじっと駅の方を眺める安本。
「……ん?あれは……」
駅の入り口に立っている女性が安本の目に留まった。
いや、女性というより女の子。おそらく二十歳か、それよりももっと若いかもしれない。
その女の子は、手に持っている傘に赤いハンカチを巻いて立っていたのだ。
――傘に赤いハンカチ?まるで昨日読んだ小説みたいじゃないか――
女の子の格好を見て、安本はすぐに〖露出奴隷 愛美〗の中で真田が愛美に出していた命令を思い出した。
傘に赤いハンカチは愛美の目印だったはず。
それに今日の天気は雲一つない快晴だってのに傘を持っているなんて明らかに不自然だ。
――あの女の子、まさか……いや、そんな訳ないか――
でもやはり少し気になる。
ここからじゃ顔がよく見えない。
安本は何歩か移動してその女の子に近づいてみた。
――おっ!可愛い子だなぁ、歳もちょうど愛美と同じくらいか?――
真田の命令では愛美は駅の南口の前で10分以上立っていないといけない事になっている。
目の前の女の子も、その場にもう5分以上立ったままだ。そしてここは駅の南口だ。
――あの女の子、もしかして貴子の小説に何か関係しているか?いや待てよ、違うな。確か真田はミニスカートにパンストを穿いていけと言っていたはずだ。あの子はミニスカートでもなければパンストだって穿いていないじゃないか。やっぱり俺の考えすぎだな――
そして丁度10分程経ったところで、女の子は時計を確認する仕草を見せた後、駅へと入っていった。
――誰かと待ち合わせていた訳じゃなかったのか……じゃあなんであんな所に立っていたんだ?――
――……ハハッ、馬鹿馬鹿しい、そんな事ある訳ないよな。考えるだけ無駄だ。まったく、引き籠ってパソコンばかり見てたから、現実と妄想の区別もつかなくなっちまっているんだな、俺は――
安本は自嘲気味に笑いながら駅前から去った。
――それにしても本当に可愛い子だったなぁ。もしあんな子のスカートの中がノーパンだったら驚きだよな――
そしてその日の夜も〝TAKAKO’S ROOM〟は更新されていた。
そこには新たに真田から愛美に送られたメールの内容が書かれていた。
真田
《おい愛美、お前は俺を舐めてるのか?
あんな丈の長い物はミニスカートとは言わないんだよ!
それにお前はスカートの中にパンツを穿いていただろう?
ノーパンで出て来いと言ったはずだ。穿いていいのはパンストだけだ。
いいか愛美、これは遊びじゃない、お前を調教するための命令だ。
明日の朝は必ず命令通りの格好で来い!俺をこれ以上怒らせるんじゃないぞ。》
愛美
《真田さん、ごめんなさい!
パンツを穿かずにミニスカートなんて……恥ずかしくて、今日はどうしても勇気が出なかったんです。
でも明日は必ず真田さんに言われた通りにします。どうか許してください。》
「えっ!?おいおい、どういう事なんだよこれは、まさか今朝の女の子本当に……」
安本は更新されたページを見て目を丸くした。
愛美がミニスカートとは言えない長さのスカートで、パンストも穿いていかなかったという事は、今朝駅で見た女の子の格好と一致してしまう。
でもそれだけでは確信は持てない。それに創作小説の中の人物が現実世界に存在するなんて、やはりどうしても信じられなかった。
ただの偶然だという可能性の方が圧倒的に高いだろう。
しかしここまで気になりだしたら確認せずにはいられなかった。
「どうする……明日の朝、もう一度あの駅に行ってみるか。まぁどうせ俺は暇だしな。」
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