「拓実君紹介するよ、妻の真弓だ。今日拓実君が来るのを2人で楽しみにしていたんだよ。」
「初めまして、藤本拓実です。色々とご迷惑をお掛けしますが、宜しくお願いします。」
正人が言っていた通り、拓実は好青年だった。
第一印象は爽やか、真面目、優しそうな感じ。
身長は高めで、きっと高校では運動部に所属していたのだろうと思わせる引き締まった体格をしていた。
夫の正人よりも大分背が高いから、一目見た時は一瞬だけその迫力に圧倒されたけれど、顔を見たらやっぱりまだあどけなさが微かに残っていて、若いなぁと真弓は思った。
高校を卒業したばかりでまだ成人もしてないんだもんね、若くて当たり前か。まだ子供っぽい。
それに正人と真弓の前で緊張しているのか、拓実の少しオドオドしたような態度は可愛らしいとさえ思えた。
「こちらこそ、宜しくね。」
真弓は拓実の緊張を少しでも解してあげようと思い、笑顔を作ってフレンドリーに挨拶をした。でも拓実は女性慣れしていないのか、真弓の笑顔を見て顔を赤くしていた。
その後、拓実が暮らすことになる離れの家を案内し、夜は〝拓実君歓迎会〟と称し3人で近くにある中華へ食事に行く事になった。
「さぁ拓実君、遠慮せずに食べてくれよ。」
「は、はい、ありがとうございます。頂きます。」
「拓実君身体大きいね、何かスポーツとかやってたの?」
「はい、小中高とサッカー部でした。あと、空手も少しやってました。」
「おお、空手か、それは良い。もしうちの敷地内に変質者が入って来ても拓海君がいれば安心だな。今まで昼間は真弓1人だったから少し心配だったんだよ。拓実君がボディガードになってくれれば。」
「は、はい、僕で何か役に立つ事があれば何でもします。」
「ちょっと正人、私のボディガードだなんて、拓実君が困っちゃうでしょ。拓実君は受験勉強で忙しくなるんだから。」
「ハハッ、そうだったな。」
話せば話すほど、拓実の礼儀正しさと若者らしい初々しさに、正人と真弓は好印象を抱いた。
居候と言っても家は別々なのだからそれなりに距離感を持って過ごせばいいと最初は考えていたが、拓実の人柄に接していると、逆にこちらから仲良くなりたくなる。
「それより拓実君はこれから毎日の食事はどうするつもりなの?」
「一応自炊しようと思ってます。フライパンとか炊飯器も買ったので。」
「拓実君は料理できるのかい?」
「いえ、実はあんまり……これから勉強しようと思ってます。」
「でもそれだけ身体が大きいんだから結構食べる量も凄いんでしょ?食費も馬鹿にならないんじゃない?」
「そう……ですね、確かに。」
「夜だけでも俺達と一緒に食べればいいんじゃないか?なぁ真弓。」
「うん、どうせ私達2人だけじゃ残っちゃう事も多いし、拓実君が食べてくれるなら、寧ろありがたいんだけど。」
「いや、でもさすがにそこまでして頂くのは申し訳ないです……部屋も殆ど無償で貸して頂くのに……」
「ハハッ、そんな遠慮する事はないんだよ。君はまだ若いんだからしっかり栄養のあるものを食べた方が良い。真弓は結構料理上手だから、口に合わないって事はないと思うよ。」
「それにその方が勉強にも集中できるよね。ねぇ拓実君、ぜひ拓実君の分も私に作らせてほしいな。食事も2人だけでするより3人方が賑やかで楽しいだろうし。」
「は、はい、ありがとうございます。まさかそこまでして頂けるなんて思ってなかったので……本当にありがとうございます。」
歓迎会は終始良い雰囲気だった。
同じ敷地内に他人が住むというのは、決して良い事ばかりではないであろう事は正人も真弓も承知している。
でもこの拓実君となら仲良くやっていけそうだと2人は感じていた。
これがもし根暗で不愛想な浪人生だったらこうは思わないだろうし、毎晩食事を一緒にしようなんてことも提案はしなかっただろう。
拓実のような好青年が来た事で、正人と真弓はまるで弟ができたような気分で喜んでいたのだ。
人との出会いが人生を豊かにする。
こうして正人と真弓は拓実を居候として大歓迎し、3人での生活は始まった。
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