あの日から、真弓と拓実は毎日のように寝る前に電話をするようになっていた。
夜、ベッドに入りながらこっそりする電話は、何でも話せてしまうような気分になるから不思議。
お風呂も済ませて、寝間着を着て、ベッドに入って後は寝るだけという、一日の中で一番リラックスしている状態だから、心が無防備になるのかもしれない。
特に真弓は恋愛系の話になると止まらなくなる。
夫の正人には言えない過去の恋愛話なんかを、拓実相手だと話せてしまうから、それが楽しかったのだろう。
『でね、その人と2年生の時に同じクラスになれたの。』
『付き合ったんですか?』
「ううん、付き合える訳ないよぉ。私はただ遠目で見てただけ。だってその人ってファンクラブまでできてたんだよ、私は近寄れないよ。』
『高校でファンクラブができるなんて、漫画の世界だけかと思ってましたけど、実際にあるんですね。真弓さんもそのファンクラブに入ってたんですか?』
『ううん、入ってないよ。その人サッカー部のキャプテンでね、試合の度に会場にファンの子が押し掛けてキャーキャー凄かったんだよ。私はそれ見てあの中には入れないやって思って。』
『告白もしなかったんですか?』
『うん、結局できなかった。でも懐かしいなぁ、あの頃は本当に夢中だったからね。』
『真弓さんの青春の人って感じですか?』
『うーん……そうだね、高校時代はあの人一色だったし。毎日あの人の事ばかり考えてた気がする。』
『いいですね、共学はそういう事があって。』
『あ、そっか、拓実君は男子校だったんだよね。中学の頃は?好きな子とかいなかったの?』
『中学の頃ですか……いましたよ。』
『わぁ、やっぱいたんだ。どんな子だったの?』
『……どんな子っていうか……』
『教えてよぉ、拓実君がどんな趣味なのか気になるし。』
『これ話すの、ちょっと恥ずかしいんですよ。』
『え~そんな事言われると逆に気になるよぉ、拓実君の恥ずかしい話とか、私大好物なんだけど。』
『じゃあ代わりに後で俺が真弓さんに聞きたい事、全部答えてくれますか?』
『私に聞きたい事?どんな事?』
『色々です。』
『う~ん、いいよ、じゃあ答えてあげる。だから拓実君も教えてよ。どんな子だったの?』
『……先生だったんですよ、副担任の。』
『え~!先生!?それって拓実君の方からって事?』
『はい、片想いです。』
『いくつの先生だったの?』
『20代半ばくらいですかね、大学卒業してそんなに経ってない先生だったと思います。』
『それが拓実君の初恋?』
『そうですね。』
『わぁ、なんか凄いね。どうして先生を好きになっちゃったの?』
『一目惚れっぽい感じですかね、それに先生が俺に優しくしてくれたのもありますし。』
『で、その後は?ずっと片想いのまま学校生活送ってたの?』
『いえ、ちゃんと言いましたよ。』
『えー告白したんだ!で、どうだったの?』
『当然ダメでしたよ。でもその後〝ありがとう、気持ちは嬉しいよ〟って言われましたけどね。』
『わぁ、なんか素敵かも……良い先生だったんだね。』
『優しい先生でしたね。聞いた話だと俺達が卒業した後に結婚して、もう子供もいるらしいですけど。』
『そっかぁ。先生かぁ、私もちょっと憧れた先生とかいたなぁ、好きになるまではいかなかったけど。拓実君ってさ、年上の人がタイプなの?』
拓実の初恋エピソードを聞いた真弓は、何気なしに拓実にそう質問してしまったが、言った後に
「あっ……」
と思った。
拓実が自分の名前を呼びながらオナニーをしていた事を忘れていた。
『そう……かもしれないですね。』
『や、やっぱりそうなんだ……』
『……』
『……』
『真弓さん、今度は俺から質問していいですか?約束ですよね?』
『あ、うん、いいよ。何でもどうぞ。』
『真弓さんが初めて男と付き合ったのっていつなんですか?』
『う~んと、大学生になってからだよ。高校の時はさっき言ったみたいずっと片想いしてたからね。』
『どんな人だったんですか?年上ですか?年下ですか?』
『同い年の人だよ、サークルで仲良くなって、それで。』
『向こうから告白されたんですか?』
『うん、そうだよ。』
『何年くらい付き合ってたんですか?』
『うーんと…2年くらい、かな。』
『2年ですか、結構長いですね。じゃあ真弓さん、あの…初めては……その人としたんですか?』
『え?……したって何を?』
『それは……その……せ、セックスとか……』
『わ、わ、何を聞いてくるかと思ったら、やだぁ拓実君ったら。』
拓実の一言で、恋愛の話から下の話へ。
でも正直、恋愛話よりもこっちの方がワクワクドキドキしてテンションが上がってしまう。
『だってさっき何でもどうぞって言ったじゃないですか。』
『そうだけどぉ……ホント拓実君って電話だと平気でエッチな事言うよね。』
『なんかちょっと聞いてみたいなと思って。』
『へんたーい。』
『答えてくれないんですか?』
『……だって2年も付き合ってたんだから、それはさ、ね?』
『じゃあ初めてはその人としたんですね?』
『う、うん……あーなんか拓実君にそういうの聞かれるの恥ずかしい。拓実君こそさぁ、その辺どうなの?』
『どうって聞かれても、俺彼女いた事ないですし……』
『あ、そっか……じゃあ……』
『俺、童貞ですから。』
『あ~……それでこんなにエッチな事に興味津々なんだ?』
少し笑い声で聞く真弓。
『……真弓さん、他にも聞いていいですか?』
『え~まだ何かあるの?』
『またちょっとエロいのでもいいですか?』
『う~ん……いいよ、私が答えられるものならね。なに?』
『セックスって気持ち良いんですか?』
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